種苗法改正案についてモロに影響を受ける果樹農家が考えること

農業ニュース

国会に「種苗法改正案」が提出され、Twitterで柴咲コウさんが反対したことに対し

ハッシュタグ#種苗法改正案に賛成しますがトレンドに上がり、色々と話題になっているので

今まさに、種苗法改正がモロに影響する立場である、現場の果樹農家が思う所なんかを書いていきたいと思います。

ちなみに予め結論から先に書いておくと私の立場としては

個人的にはやや反対だが業界にとっては良いことなのでまぁいいんじゃねという立場です。

種苗法の何がどう変わるのか

ざっくり言ってしまうと、農家による登録品種の種苗の自家増殖が禁止される

ということが問題の争点になっています。

そもそも、前提として登録品種自家増殖とはという話なんですが

まず登録品種というのは、農林水産省の以下の図の通りで、全体のごくごく一部にすぎません。

(出典:農林水産省HP https://www.maff.go.jp/j/shokusan/attach/pdf/shubyoho-1.pdf)

リンゴだと、シナノゴールドトキなどが登録品種にあたります。

ここに書いていないマイナー品種もたくさんありますがリンゴの場合全体の4%です。

一部で勘違いされているのは改正されても、96%の一般品種は自家増殖OKということです。

そして自家増殖とは、リンゴで言うと接ぎ木にあたります。

台木と穂木を接ぎ木することによって、同じ品種を増殖させる行為です。

そして、今まさにその登録品種のシナノゴールドを自家増殖しているのが私です。

↑これらがまさに登録品種のシナノゴールドです。

なので、今回の改正案が通ってしまうと違法行為になってしまうわけです。怖っ。

そもそもなんで自家増殖してるの?

私を含め、一部の農家が苗木屋さんから苗木を買わずに、自家増殖をする理由はただ一つで単純にコストの問題です。

通常、シナノゴールドのリンゴの苗を苗木屋で購入すると1本2000円前後かかります。

私が行っているリンゴの高密植栽培だと10a(1000㎡)あたり400本栽植しますと

400本×2000円=800,000円、10aあたり80万円かかります。

しかし、接ぎ木をして自家増殖を行うと手間はそれなりにかかりますが

台木と穂木を自分で準備すれば、基本的接ぎ木テープやナイフなどの消耗品のみの費用しかかかりません。

なので、上記の私のように接ぎ木400本を行えば約80万円分のコストがカットされるというわけです。

ですから、登録品種を自家増殖している農家にとっては、今回の改正案に反対するのは当然のことであって、

こういったツイートは明確に間違っていると断言出来ます。

ただし、実際には登録品種を、大量に自家増殖している農家は本当にごくごく少数であり、一般品種をメインに栽培しているケースがほとんどです。

なおかつ果樹というものは、通常10年20年と植え替えるものではありません。

このように、高密植栽培という大量に苗を植え付ける特殊な栽培方法をしていない限り、

登録品種でなくても自家増殖をすること自体そう多くないと思われます。

りんごの高密植栽培 10aあたり400本植え付ける

なので、農家全体としてはそれほど損する人は多くないんじゃないかなぁという印象です。

種苗法改正しても海外流出は防げない

で、もう一つ種苗法に対して疑問なのがそもそも登録品種の自家増殖を禁止にしたからといって海外流出防げるの?って話

漫画「ジョジョリオン」でもロカカカという架空の果物で接ぎ木の話がありましたが

果樹の自家増殖なんて枝を数センチ切り取っただけで簡単に自家増殖出来てしまうのです。

この赤丸で囲った部分さえあれば簡単にコピー出来てしまいます。

野菜の種なんてもっと持ち出しは簡単でしょう。

私達カタギの人間は、法律をきちんと守りますが悪意のある人間ならポケットに忍ばせ海外流出なんて簡単です。

海外流出を防ぐための種苗法改正なんて言われてますが、

農家の自家増殖を禁止することによって海外流出のリスクを減らすという効果は全くないと思います。

種苗法改正は育種者・育種機関の権利を守るため

で、こんな簡単なことは国の偉い人もわかってるわけで、

じゃあなんで種苗法改正するのかっていうと

種苗法を改正することによって育種者・育種機関の権利を守るためだと思われます。

育種というのは非常に手間がかかる行為で

果樹の場合、密閉空間の中で特定の品種同士を受粉させて出来た果実から種を取り出しその種から育った木から生まれた果実を選別していきます。

種から木を育てると、結実までかなり少なく見積もって最低5年以上はかかるでしょう。

しかもどんな味、どんな特性をもった果実になるかは完全に運次第です。

それだけ苦労して育種して生まれた優良品種を、たった数千円で販売したと思ったら

販売した農家にどんどんコピーされていく。

そんな状況では、育種者は新しい品種をどんどん生み出していこうなんて思えるわけがありません。

何年、何十年も苦労して新しい品種を開発してもその苦労に見合った対価は現状あまり得られていません。

海外流出というのは、あくまできっかけにすぎず、実際の所は、育種者・育種機関の当然の権利が守られるための法改正というのが妥当だと思います。

育種者の権利が守られることによって、今後シナノゴールドのように世界に羽ばたく優良品種※が増えればそれは日本という国にとっても大きな利益になるので。

「シナノゴールド」欧州進出 世界ブランドへ第一歩 イタリアの大規模栽培で契約締結 – 産経ニュース https://www.sankei.com/region/news/160325/rgn1603250018-n1.html

結論:一部の農家は多少損するけど、まぁしょうがないよね。

というわけで、私個人としては今後シナノゴールドの接ぎ木が出来ないのは多少痛手なのですが、

健全な業界のためには今回の種苗法改正案はそれなりに筋が通っていると思われます。

しかし痛手といってももう今年200本以上シナノゴールドの接ぎ木を完了させてしまったわけで、

来年以降も大量にシナノゴールドの接ぎ木をするかと言われれば完全にノーなのでやっぱり大した損失もないのです。(もし改正案が通らなければ)少しはするけどね。

なのでそれほど強く反対するつもりはありません

もし仮に来年シナノゴールドの接ぎ木を400本行う予定であったのであれば、おおいに反対表明をしていたでしょう。そんなもんです。

まとめ

というわけで今回の種苗法改正案によって

・コストが増える農家も確かに存在する。が、限定的(果樹農家は

・海外流出を防ぐ意味はほぼない。

・今まで不遇だった育種者・育種機関の権利が守られる。

・結果的に優良品種が今後増えていくかも

以上、山の上のりんご畑からお送りしました。

登録品種のシナノゴールド美味しいですよ!

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